2026年7月3日 西川 宜彦 氏: クロック異方性を持つカイラル磁性体における
クロック異方性を持つカイラル磁性体におけるDzyaloshinskii-de Gennes転移
西川 宜彦 氏
Yoshihiro Nishikawa
名古屋大学
2026年7月3日(金) 10:30~ 理学館614
カイラル磁性体では、Dzyaloshinskii-Moriya相互作用と交換相互作用、磁場などの競合により、らせん構造やスキルミオンなどの特徴的な秩序が現れ、その相転移は近年でも理論的・実験的に盛んに研究されている [1,2]。特に、強磁場下の一軸カイラル磁性体は、連続的でありながら一次転移的な臨界指数を持つという特異な相転移を持つことがDzyaloshinskii [3] によって予言され、Ginzburg-Landau理論では記述できない相転移に分類されると考えられている [4]。この転移をここではDzyaloshinskii-de Gennes (DdG) 転移と呼ぶ。
Dzyaloshinskiiの計算は平均場近似に基づいており、有限次元空間の揺らぎに対するDdG転移の安定性は理解されていない。実際に最近、絶対零度における一次元カイラル磁性体のDdG転移が量子揺らぎに対して不安定であり、転移の性質が大きく変わってしまうことが報告された [5]。これは低次元空間の揺らぎがDdG転移を不安定化させることを強く示唆する。
本研究では、三次元カイラル古典Heisenberg模型にクロック型異方性を導入し、マクロな巻き構造の現れる相と強磁性秩序相の間の相転移に注目し、大規模なモンテカルロシミュレーションを行った。その結果、この相転移は物理量の連続性を保ちながらも一次転移的な臨界指数と整合する異常な臨界挙動を示すことを見出した。さらにマルチカノニカル法を用いて自由エネルギーを測定することで、系の大きさLに対して臨界点近傍では深さがO(L^2)の自由エネルギー極小状態が有限の巻き数密度の範囲にO(L)個存在することがわかった。したがって熱力学極限では平らなエネルギーランドスケープを形成することで「無限個の不連続転移が集積した連続転移」とみなすことができる。この振る舞いは、de Gennesによるnucleation-type criticalityの描像[3]およびDzyaloshinskiiによる理論的予言[4]と整合的であり、三次元系におけるDdG転移の存在とその物理的描像を初めて数値的に示すものである。前述の論文[5]や類似のANNNI模型などが二次元空間以下ではfloating相を伴うPokrovski-Talapov転移を持つことと比較すると、本結果は巻きを伴う転移の上部臨界次元が三次元以下である可能性を強く示唆している。セミナーでは相転移の臨界性を詳しく議論し、時間が許せば近年提案されたカイラル対称性を破った量子スピン模型の脱閉じ込め量子相転移との関連についても言及したい。
[1] N. Nagaosa & Y. Tokura, Nature Nanotechnology, 8, 899 (2013); Y. Nishikawa et al., Phys. Rev. B 99, 064435 (2019).
[2] Y. Togawa et al., Phys. Rev. Lett. 108, 107202 (2012); Y. Nishikawa & K. Hukushima, Phys. Rev. B 94, 064428 (2016); Y. Togawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85, 112001 (2016).
[3] I. E. Dzyaloshinskii, Sov. Phys. JETP 20, 665 (1965).
[4] P. de Gennes, “Fluctuations, Instabilities, and Phase transitions” (1975).
[5] L. M. Chinellato et al., Phys. Rev. X 16, 021056 (2026).
