2026年1月6日 井上 大輔 氏: ねじれ二層グラフェンにおける輸送現象および二層ニッケル酸化物における超伝導の理論

ねじれ二層グラフェンにおける輸送現象および二層ニッケル酸化物における超伝導の理論

井上 大輔 氏
Daisuke Inoue
名古屋大学

2026年1月6日(火) 10:30~ 理学館614

 強相関電子系では強い電子間相互作用により、高温超伝導をはじめとする多彩な量子秩序相が実現する。近年、それらの起源として、スピンチャンネルや電荷チャンネルの多自由度の揺らぎの重要性が議論されている。本研究では特に、スピン・軌道・電荷の自由度に着目して、魔法角ねじれ二層グラフェン及び二層ニッケル酸化物高温超伝導体La3Ni2O7における未解明現象に対して理論的解析を行った。

 魔法角ねじれ二層グラフェンでは、通常の金属における電気抵抗の温度依存性から逸脱した非フェルミ液体的な輸送現象が観測される[1]。この系の伝導電子は、スピンに加えて軌道(バレー)の自由度を有し、それらの複合自由度に関する高次なSU(4)対称性を持つ[2]。また、フェルミ準位近傍には、ほぼフラットなバンドに由来するvan Hove特異点が存在する。本研究では、揺らぎ交換(FLEX)近似に基づいた自己エネルギーを考慮し、電気抵抗を計算した。その結果、スピンと軌道自由度の揺らぎが多チャンネルで縮退して発達することで、実験で観測される非フェルミ液体的な振る舞いが再現されることを見出した[3]。

 二層ニッケル酸化物は最近発見された新規高温超伝導体であり、バルクでは圧力下(P~10GPa)でTc~80Kの超伝導を示す[4]。低圧下では、電荷密度波(CDW)秩序やスピン密度波(SDW)秩序の共存相が超伝導相に隣接して観測されている[5]。CDWとSDWは独立して発現することが実験から示唆されており、これらの揺らぎがペアリング機構に重要であることが予想される。本研究ではまず、CDW/SDW共存相の起源について線形化密度波(DW)方程式を用いて解析した。従来の平均場近似を超えた高次多体効果(ヴァーテックス補正)を考慮することで、パラマグノンの干渉によりCDW/SDW共存相が再現されることを見出した。さらに、ヴァーテックス補正を無限次まで取り込むことでCDWとSDWの揺らぎを定量的に正しく考慮したペアリング相互作用を計算し、線形化ギャップ方程式を解くことで超伝導状態の解析を行った。その結果、CDW揺らぎとSDW揺らぎが協力することで高いTcとなることを明らかにした[6]。

 最近、二層ニッケル酸化物薄膜において常圧で超伝導(Tc~40K)となることが発見された[7]。薄膜系では、CDWやSDWは観測されていないものの、バルクとの類推でCDW/SDWの揺らぎが超伝導発現に重要であることが予想される。本研究では、FLEX近似と線形化DW方程式を組み合わせた解析を行うことで、CDWとSDWの揺らぎが同程度に強く発達し、それらが協力してクーパー対形成が強く促進されることを見出した。さらに、このCDW/SDW揺らぎの協力機構は、実験で議論中であるM点周りのγポケットの有無に対して定性的には依存しないことがわかった。
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[1] A. Jaoui et al., Nature Phys. 18 633 (2022).
[2] S. Onari and H. Kontani, PRL 128, 066401 (2022).
[3] D. Inoue et al., PRB 109, 205102 (2022).
[4] H. Sun et al., Nature 621, 493 (2023).
[5] X. Ren et al., Commun. Phys. 8, 52 (2025).
[6] D. Inoue et al., arXiv:2503.12925 (2025).
[7] E. K. Ko et al., Nature 638, 935 (2024).