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非従来型伝導の理論

鉄系高温超伝導体の軌道揺らぎ機構を提唱

鉄系超伝導体の相図
磁気秩序温度TNは、FeSeでは存在しない。
我々は高次の多体効果(バーテックス補正)
に着目して、相図の説明に成功した。

 2008年に発見された鉄系超伝導体は、銅酸化物化合物に次ぐ高い転移温度Tcを持つ高温超伝導体である。超伝導とは無縁と考えられてきた鉄の化合物における高温超伝導現象の発見は物性物理における大事件であり、超伝導発現機構の研究が世界中で精力的に進展している。

 鉄系超伝導体中の電子は、鉄の3d軌道に由来する「軌道自由度」を獲得するため、軌道の物理が重要である。我々は、平均場近似を超えた様々な理論解析手法を開発し、相図の電子ネマティック秩序が軌道秩序であることを明らかにした[1,2]。また発達した軌道揺らぎが、符号反転のないS波超伝導(S++波)を媒介することを見出した[3,4]。さらにTcに対する不純物効果[5]やTc以下の中性子散乱実験[6]などの理論研究を行い、S++波状態を支持する結果を得た。

 最近では新規鉄系超伝導体FeSeが大きな注目を集めている。我々は、FeSeにおける"磁性を伴わない電子ネマティック秩序”の正体が軌道秩序であることを理論的に示した[7,8]。更に、FeSeが圧力下で40K,原子層化で60K~100KまでTcが向上する理由を解明した[9,10]。

[1] S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 109, 137001 (2012).
[2] H. Kontani and Y. Yamakawa, Phys. Rev. Lett. 113, 047001 (2014).
[3] H. Kontani and S. Onari, Phys. Rev. Lett. 104, 157001 (2010).
[4] S. Onari, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 112, 187001 (2014).
[5] S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 103, 177001 (2009).
[6] S. Onari, H. Kontani, and M Sato, Phys. Rev. B 81, 060504(R) (2010).
[7] Y. Yamakawa, S. Onari, and H. Kontani, Phys. Rev. X 6, 021032 (2016).
[8] S. Onari, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 116, 227001 (2016).
[9] Y. Yamakawa and H. Kontani, Phys. Rev. B 96, 144509 (2017).
[10] Y. Yamakawa and H. Kontani, Phys. Rev. B 96, 045130 (2017).