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トポロジカルHall効果の微視的理論:包括的理解に向けて

仲澤一輝 氏
Kazuki Nakazawa
名古屋大学 理学研究科

2017年9月5日(火) 13時30分 理学館614

 磁化構造がスピンカイラリティーをもつとき,それと交換相互作用する伝導電子系がHall効果を示すことが知られている [1].この効果はトポロジカルHall効果(THE)[2]と呼ばれ,スカーミオン系 [3]などを対象に,近年精力的に研究されている.

 THEは,幾何学的位相(Berry位相 [4])による有効磁場が引き起こす現象であると一般に認識されている.このような解釈は,伝導電子のスピンが局在磁化に断熱的に追随する場合に成立する.そのためには伝導電子と局在磁化の間の交換相互作用Mが充分強く(強結合),磁化構造の波長λが充分長いことが必要であるが,その後,断熱条件の成り立たない弱結合の場合にもTHEが現れることが示された [5].

 断熱・非断熱の境界については,λが電子の平均自由行程ℓよりも長い場合に(拡散領域)以前より論争がある [6].また,強結合領域では有効磁場は局所的な磁化構造で決まるが,弱結合領域では非局所的になることがある [5,7].断熱・非断熱,局所・非局所のそれぞれの領域では,THEの微視的パラメータ(M, λ,電子の減衰率γなど)への依存性が異なると考えられるので,これらの境界を明らかにし,各領域におけるHall伝導度の表式を求めることは,実験結果の解釈の上でも重要である.

 本研究の目標は,連続的に空間変化する一般の磁化構造の下で電子が示すTHEの振る舞いを,上記パラメータの全領域に対して明らかにすることである.その際,電子が断熱的に追随する条件,および有効磁場の局所性の条件についても議論する.

 まず,Mがγよりも小さい領域のTHEを,Mに関する摂動と微小振幅の方法 [8]を用いて調べ,拡散領域(λ>ℓ)と,バリスティックな領域(λ<ℓ)においてHall伝導度の微視的表式を求めた.その結果,拡散領域において,λに対応するエネルギースケールとMの大小関係が,電子拡散の寄与を通して有効磁場の局所・非局所を決めること,有効磁場が局所的な領域では,従来の弱結合理論の結果(Mの3次に比例)とは異なり,Mの1次に比例することがわかった.また,有効磁場が非局所的な領域では,スカーミオン密度の増加とともにHall伝導度が減少するという,通常の幾何学的解釈とは逆の傾向を得た.

 次に,拡散領域における断熱描像から非断熱描像へのつながりを調べるため,ゲージ場の方法 [8]を用いて,Hall伝導度を計算した.その結果,Mがγよりも小さくなると,ゲージ場の非断熱成分が断熱成分と同じオーダーで寄与することがわかり,断熱・非断熱描像の境界はM=γであると結論した.

[1] J. Ye et al., Phys. Rev. Lett. 93, 3737 (1999).

[2] P. Bruno, V. K. Dugaev, and M. Taillfumier, Phys. Rev. Lett. 93, 096806 (2004).

[3] S. Mühlbauer et al., Science 323, 915 (2009).

[4] M. V. Berry, Proc. Soc. London. A. 392, 45 (1984).

[5] G. Tatara and H. Kawamura, J. Phys. Soc. Jpn. 71, 2613 (2002).

[6] A. Stern, Phys. Rev. Lett. 68 1022 (1992); D. Loss, H. Schoeller, and P. M. Goldbart, Phys. Rev. B 48, 15218 (1993); S. A. van Langen, H. P. A. Knops, J. C. J. Paasschens, and C. W. J. Beenakker, Phys. Rev. B 59, 2102 (1999); D. Loss, H. Schoeller, and P. M. Goldbart, Phys. Rev. B 59, 13328 (1999); G. Metalidis and P. Bruno, Phys. Rev. B 74, 045327 (2006).

[7] K. Nakazawa and H. Kohno, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 073707 (2014).

[8] G. Tatara, H. Kohno, and J. Shibata, Phys. Rep 468 213 (2008).