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多重超伝導相をもつUPt3 の超伝導対称性の 理解の現状:これまでの理解から最近の進展まで

井澤公一氏
Koichi Izawa
東京工業大学大学院 理工学研究科

2013年7月29日 13時30分 理学館506

近年,興味深い物性を示す非従来型超伝導体が数多く発見されている.特にUGe2,URhGe,UCoGe にみられる強磁性超伝導やCePt3Si,CeRhSi3,CeIrSi3 における空間反転対称性の破れた超伝導など,その多彩でエキゾチックな超伝導状態は多くの注目を集めている.それに対しUPt3 は発見から20年以上の長い歴史をもつ超伝導体ではあるが,少なくともA相,B相,C相の3つの明確な多重超伝導相をもつ奇パリティ超伝導体として今でも異彩を放っている.このUPt3 の超伝導状態についてはこれまで比熱,熱伝導率,磁場侵入長,超音波吸収などを用いた様々な研究の結果,ポイントノードとラインノードのハイブリッド型のギャップ構造もつ既約表現E2u に属する超伝導対称性が最も有力であると長い間考えられてきた.しかしその一方で,E2u 対称性では,時間反転対称性の破れに由来する自発的内部磁場が見えていないこと,超伝導相図における4重臨界点の存在,NMRナイトシフトで議論されている2成分のdベクトルの存在,および弱いスピン軌道相互作用,といった実験事実を単純には説明することが出来ないという問題点があった.さらに,これまでなされてきた多くの議論ではE2u 対称性で期待されるギャップ構造が仮定されていたが,実際にそのギャップ構造は実験で直接的に確かめられてはおらず,その超伝導対称性が実験的に確定したといえる状況ではなかった.そこで我々はUPt3の超伝導状態の理解を深めるため,熱伝導率テンソルを主なプローブとして準粒子低エネルギー励起構造を調べてきた.

本講演では,これまでに報告されているUPt3 に関する研究を紹介した後,我々が行ってきた熱伝導率テンソルの実験について紹介する.特に,50mKまでの極低温における熱伝導率の磁場方向依存性の結果から,これまで有力視されていたE2u ではなく,既約表現E1u に属するf波対が実現している可能性が高いこと,そしてその対称性が上述のE2u では説明困難であった実験結果を含め多くの実験結果を自然に説明することができることを述べる.さらに,最近行った熱ホール伝導率の実験からUPt3 におけるノード構造を実際のフェルミ面と対応させて議論する.そして,これらの点を合わせてUPt3における超伝導の理解の現状を整理した後,今後の展望を述べたい.

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