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シリコン原子空孔における強相関・強結合量子状態

山川 洋一 氏
Youichi Yamakawa
名古屋大学 大学院理学研究科

2011年5月13日 10時30分 理学館614

シリコン単結晶は、人類が作り得る中で最も完全に近い結晶の一つです。また、半導体代表物質でもあり、パソコンのCPU やメモリの基盤には純度99.999999999%(イレブンナイン) 以上という非常に高純度の単結晶が使われています。ところが近年、20K から20mK という非常に低温領域での超音波測定により、その高純度の結晶が、結晶中に極微量にしか存在しないはずの原子空孔によって、異常なソフト化を示すという実験結果が報告されました1)。シリコンの原子空孔で、いったい何が起こっているのでしょうか。その鍵は、原子空孔における量子状態にありました。シリコン原子空孔は、物理としては非常にシンプルな系です。その微視的理論は、1980 年代にはSchluter 等2) によって完成したと言われています。現在の半導体業界の研究は第一原理計算や分子動力学が中心です。しかしながら、電子相関効果を平均場近似、電子フォノン相互作用を断熱近似したこれらの理論では、この極低温での異常物性を説明出来ません。そこで本研究では、先行研究の理論を拡張した原子空孔のクラスターモデルを導入しました。その上で厳密対角化法を用いて、局所格子振動も量子化されたフォノンとして扱い、電子相関効果と電子フォノン相互作用を採り入れ、原子空孔における電子格子系の強相関・強結合量子状態を調べました?)。その結果、電子とTrigonal モードフォノンとの非断熱効果によって、原子空孔の基底状態の持つ縮重度を回復する事や、これまで不安定と考えられていた電荷+1 の状態V + がホウ素ドープによって現れる事などを明らかにしました。これらの結果は、先行研究の結果と対照的であり、実験結果とはコンシステントです。コロキウム当日は、シリコンとは何かという話から、基礎物理としての面白さ、産業との関係等についても併せて、なるべくわかりやすくご紹介出来ればと思います。

1) T. Goto, H. Yamada-Kaneta, Y. Saito Y. Nemoto, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 044602.
2) G.A. Baraff, E.O. Kane and M. Schl¨uter, Phys. Rev. B 21 (1980) 5662.
3) Y. Yamakawa, K. Mitsumoto and Y. ¯ Ono, J. Phys. Soc. Jpn Supplement A 77 (2008) 266.