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繰り込み群法を用いたTTM-TTP塩の多軌道効果の解析

大森有希子 氏
Yukiko Omori
名古屋大学理学研究科

2010年4月30日 10時30分

擬1次元分子性固体(TTM-TTP)I_3は、その組成比が1:1であることから、1次元ハーフフィルド系であると考えられてきた。しかし予想されるふるまいとは異なり、比較的高い伝導率をもつ高温状態から、低温で非磁性の絶縁体に転移する[1]。さらにこの低温相において、分子の対称性が低下していること、すなわち分子内電荷秩序の可能性が実験的に指摘された[2,3]。 このような分子内における秩序化は、第一原理計算によって分子内AF状態が予想された単一成分金属 Au(tmdt)_2 [4]と同様に、分子性固体の研究においてこれまで考慮されてこなかった分子内自由度を取り入れて考えなければならない現象として興味を集めている。この(TTM-TTP)I_3に対し、我々はこれまでに、第一原理を用いて2軌道系の有効強束縛模型の導出を行い、平均場近似によって分子内電荷秩序化の可能性を示した。さらに我々は今回、平均場近似では得られない磁性についての情報を得るために、繰り込み群による解析を行なった。発表では、(1)バンド混成によって後方散乱・Umklapp散乱の値が単軌道模型のものから大きく変調をうけ、これによって(従来どおりフェルミ面上の相互作用のみを考慮した場合でも)分子内電荷秩序の不安定性が現れること、(2)この分子内電荷秩序相では非常に小さいスピンギャップの存在が予想され、実験で観測された緩やかな非磁性化と対応づけられること、(3)Campbellらが提案したバンド分割の方法[5]を2軌道系に拡張し、軌道間散乱の効果を繰り込みの過程に取り込んだ結果、軌道間散乱による分子内電荷秩序相の拡大が明らかになったこと、の3点を中心に報告する。

[1] M. Maesato, et al., Synth. Met. 103, (1999) 2109.
[2] K. Yakushi, et al., Synth. Met. 135, (2003) 583.
[3] Y. Nogami, et al., Synth. Met. 135, (2003) 637.
[4] S. Ishibashi, ey al., J. Phys. Soc. Jpn., 77, (2008) 024702.
[5] Ka-Ming Tam, et al., Phys. Rev. Lett., 96, (2006) 036408. (2008)