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非従来型超伝導の理論

スピントリプレット超伝導の不思議


スピントリプレットのクーパー対の模式図(上図)と、
本研究より得られた超伝導相図(下図)。軌道秩序相
と磁気秩序相の境界近傍でトリプレット超伝導が広く
発現する。

 世の中の超伝導体は、クーパー対の組み方によっていくつかのグループに分類できる。大多数は、↑スピンと↓スピンの電子が対を組んでクーパー対の全スピンが0となるシングレット超伝導だ。一方で、全スピンが1となる物質は“トリプレット超伝導体”と呼ばれ、不思議な現象として注目されている。代表的な候補物質はルテニウム酸化物である。1994年に日本のグループが発見して以来、様々な実験・理論的研究が行われてきたが、未だに多くの謎が残されている。その中でも特に重要な問題が、何故ルテニウムでトリプレット超伝導が発現するのか?という本質的な疑問である。これまで数多くの理論研究者によって解明が試みられてきたが、決着はついていない。そこで我々はこの解決のカギとして、平均場近似を超えた高次の多体相関に着目した。しかし高次の多体相関は複雑であって一筋縄には取り扱えない。我々はこれを解決するために、汎関数くりこみ群[1,2]と摂動論[3]を組み合わせた新しいハイブリット理論[4]を開発した。様々な相関をまとめて計算できるくりこみ群に、必要に応じて特定の相関だけ抽出することができる摂動論を合わせることで、これまで理解できなかった複雑な多体相関の効果の解明に成功した。この結果から、スピン揺らぎと軌道揺らぎが協力することで発現する新しいトリプレット超伝導の機構を発見することに成功した。この研究成果は、ルテニウム超伝導にとどまらず、同じくトリプレット超伝導であると言われているUPt3等の発現機構を解く重要な鍵になるかもしれない。

[1] M. Tsuchiizu, S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 111, 057003 (2013).
[2] M. Tsuchiizu, Y. Yamakawa, S. Onari, Y. Ohno, and H. Kontani, Phys. Rev. B 91, 155103 (2015).
[3] S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 109, 137001 (2012).
[4] R. Tazai, Y. Yamakawa, M. Tsuchiizu, and H. Kontani, Phys. Rev. B 94, 115155 (2016).