研究紹介

 私たちが取り組む主な研究テーマを紹介します。金属電子の強い量子効果と相互作用の協奏がもたらす新物性を幅広く研究しています。

 

非従来型超伝導

T=0トリプレット相図
2軌道ハバード模型に対して得られた超伝導相図

 電気抵抗がゼロになる超伝導現象は、電子が対状態(クーパー対)を組むことで発現する相転移現象です。クーパー対の引力機構は、通常は電子格子相互作用です。一方で、電子間のクーロン斥力に由来する電子相関を引力源とする非従来型超伝導体ではバラエティー豊かな超伝導が実現し、現代物理学の中心課題の一つになっています。
 私たちの研究室では高温超伝導の理論研究に取り組んでいます。銅酸化物高温超伝導体Tc<160K)では、電子のスピン自由度の量子力学的な揺らぎ(スピン揺らぎ)がd波クーパー対をもたらします。一方で鉄系高温超伝導体Tc=60K~100K)には鉄原子のd軌道の自由度が存在し、軌道自由度の揺らぎ(軌道揺らぎ)が発達するとき高温超伝導が起きることを私たちは明らかにしました。
 世の中の99%の超伝導体は、↑スピンと↓スピンがクーパー対を組むシングレット超伝導です。ところが↑スピン同士が対を組むトリプレット超伝導が一部のf電子系やd電子系で実現し、その引力機構が注目を集めています。私たちは、軌道揺らぎとスピン揺らぎが協調して発達する状況がトリプレット超伝導に有利であること、およびその実現条件を見出しました。
 その他にも有機導体やCo, Ni, Cr化合物など、個性豊かな非従来型超伝導体がたくさんあります。Sc研で超伝導を研究しませんか?

詳細は:鉄系高温超伝導体の軌道揺らぎ機構を提唱スピントリプレット超伝導の不思議

 

 

電子相関の理論・量子相転移

軌道秩序
(a) 繰り込み群方程式(ファイマン図形)。高エネ
ルギーの散乱過程を漸次繰り込み、低エネルギーの
有効相互作用を得る。(b) 軌道揺らぎを誘起する
ファイマン図形。(c) 軌道秩序の模式図。

 電子間に強いクーロン相互作用が働く強相関電子系は、高温超伝導をはじめ新規物性現象の宝庫ですが、強いクーロン相互作用の存在により、その理論的解明は容易ではありません。そこで私たちの研究室では、場の理論に基づく解析的手法や、大規模ファイマンダイヤグラム計算などの理論手法の開発を積極的に行い、数々の強相関電子系における新規物性現象を解明してきました。最近では,K. G. Wilson(1982年ノーベル賞)により開発された繰り込み群理論を強相関電子系に適用し、超伝導機構や相転移現象を研究しています。
 また強相関電子系は相転移現象の宝庫ですが、最近では液晶的な構造を持った「電子液晶秩序」が相次いで発見され、強相関電子系の中心課題の一つになっています。私たちは最新の電子相関理論に基づき、鉄系超伝導体では多彩な軌道秩序が、銅酸化物超伝導体では多彩なボンド秩序(=d波対称性の電荷秩序)が生じることを理論的に示し、これらの高温超伝導体の液晶的秩序を説明しました。
 最近の研究では、多くの非従来型超伝導体において普遍的に液晶的秩序が出現し、その量子揺らぎがクーパー対形成の引力を与えます。すなわち電子液晶を理解すれば、超伝導の発現機構が解明できるはずです。

詳細は:銅酸化物高温超伝導体の液晶秩序とは?重い電子系を貫く法則を解明

 

 

固体中のディラック電子

Dirac-cone
α-(BEDT-TTF)2I3におけるディラック電子のバンド構造
(ディラックコーン)。

 真空中の電子は決まった静止質量を持っています。しかし固体中では、電子は様々な種類の粒子に生まれ変わります(準粒子)。とりわけ、グラフェン(2010年ノーベル賞)・有機導体・ビスマスなどで実現する、質量が殆どゼロの準粒子は「ディラック電子」と呼ばれ、その奇妙な量子輸送現象や巨大反磁性が世界的な注目を集めています。
 私たちは有機導体α-(BEDT-TTF)2I3のディラック電子系において電子相関効果に着目し、異常なスピン揺らぎ(巨大コリンハ比)を理論的に初めて見出しました。このスピン揺らぎは鹿野田研(東大工)の核磁気共鳴測定により確認されています。また、ディラック電子系の表面にはトポロジカルな性質に由来する「エッジ状態」が現れます。私たちはα-(BEDT-TTF)2I3の絶縁体相がエッジ状態により金属化することを見出しました。
 ディラック電子はd電子系やf電子系にも存在します。私たちは鉄系超伝導KFe2As2のディラック電子に由来する面白いスピン輸送現象を予言しました。

詳細は:固体中のディラック電子系

 

 

輸送現象

輸送現象トポ位相
Nd2Mo2O7におけるトポロジカルホール効果の機構。
磁気構造が電子に量子力学的位相(ベリー位相)を
与え、ホール効果が生じる。

 伝導電子が電流や熱流を運ぶ輸送現象は、電子相関による新奇現象の宝庫です。例えば電場と磁場の直交方向に起電力が生じる「ホール効果」は、各種高温超伝導体では著しく温度変化し、Tc直上で通常金属より一桁大きくなり、超伝導機構との関連が興味深いです。私たちは高次の多体効果バーテックス補正)を考慮した輸送現象の理論を構築し、スピンや軌道の量子揺らぎによってホール効果が著しく増大される量子力学プロセスを発見しました。本研究よりホール係数の増大は発達した量子揺らぎが存在する証拠であり、これらの揺らぎが高温超伝導を媒介すると考えられます。
 ホール効果の親戚に、強磁性金属における「異常ホール効果」や、常磁性金属でスピン流が発生する「スピンホール効果」があります。私たちが理論的に予言した4d、5d遷移金属のスピンホール効果は、大谷研(物性研)による精密測定によって確認されました。また、非共線的(non-collinear)スピン構造が電子に与えるベリー位相に着目し、パイロクロア化合物Nd2Mo2O7θ~2°)や反強磁性体Mn3Sn(θ=90°)で注目を集める「トポロジカル異常ホール効果」を統一的に説明しました。
 スピンの代わりに電子のエネルギー分散関係の谷間(バレー)の自由度を使う「バレーホール効果」は、樽茶研(東大工)による二層グラフェンの測定で見出されました。私たちは有機導体のディラック電子系において、電荷秩序が作り出すベリー位相によりバレーホール効果が生じることを理論的に予言しています。

詳細は:輸送現象における量子効果および臨界現象

 

 

物理学教室発行の研究室紹介パンフレット(pdf)

 

 

最近の博士論文・修士論文


[最近の博士論文]

 


[最近の修士論文]

 
  • 大木 大悟
    有機ディラック電子系α-(BEDT-TTF)2I3における非一様電荷秩序と直流・光学伝導率
    2019年3月
  • 杉原 慶昭
    五軌道模型を用いた鉄系超伝導体における準粒子干渉の理論研究
    2019年3月
  • 松原 舜
    強相関電子系のエッジやアンドレーエフ束縛状態がもたらすスピン揺らぎの増大および表面d+ip波超伝導
    2019年3月
  • 竹内 理紗
    Theoretical research on the peak structures observed in inelastic neutron scattering of iron-based superconductors
    2018年9月
  • 川口 功起
    銅酸化物高温超伝導体のおけるスピン揺らぎ誘起多段CDWの理論研究
    2018年3月
  • 田財 里奈
    結合定数バーテックス補正を考慮した超伝導理論-軌道・電荷揺らぎによるトリプレット及びシングレット超伝導-
    2017年3月
  • 松岡 毅
    FeSeにおける動的スピン感受率の理論研究
    2017年3月
  • 中岡 宏徳
    BaTi2As2Oにおけるバーテックス補正を考慮した軌道秩序の研究
    2016年3月
  • 松岡 勝嗣
    LaFeAsO1-xHxの高ドープ領域での構造相転移および電子状態の研究
    2016年3月
  • 佐𦚰 里奈
    繰り込み群法を用いた1次元電荷秩序の研究
    2015年3月
  • 松野 元樹
    固体中のディラック電子系における長距離クーロン相互作用の効果
    2015年3月
  • 大野 祐輔
    Ru酸化物のトリプレット超伝導発現機構の理論研究:バーテックス補正の効果
    2014年3月
  • 西浦 秀和
    鉄系超伝導における磁気・超伝導共存相の理論
    2014年3月
  • 宮原 和之
    固体中における質量ゼロのディラック電子系に対する円偏光照射の効果
    2014年3月
  • 井上 善夫
    鉄系超伝導体における不純物誘起軌道秩序の理論的研究
    2013年3月
  • 江口 貴亮
    分子性導体のディラック電子系におけるバレーホール効果と軌道磁化
    2013年3月
  • 川口 将司
    粒子源に導かれる櫛歯状パターンへの異方性およびノイズの効果
    2013年3月
  • 小谷 明弘
    2次元ヘリウム3における動的応答関数の研究
    2013年3月
  • 小谷 明弘
    2次元ヘリウム3における動的応答関数の研究
    2013年3月
  • 津村 卓弥
    傾斜ディラックコーンを持つ二次元電子系におけるクライン・トンネリング
    2013年3月
  • 西下 宗志
    3d遷移金属強磁性体における電子相関効果の研究
    2013年3月
  • 山下 真吾
    多重連結した4He薄膜における超流動の研究
    2013年3月
  • 齋藤 哲郎
    軌道揺らぎ理論による鉄系超伝導体のギャップ関数の解析
    2012年3月
  • 八木 裕一郎
    パイロクロア格子上の古典的Heisenberg模型の研究
    2012年3月
  • 近藤 信二
    移動する粒子源によるステップのパターン形成
    2011年3月
  • 丁子 丈士
    バンド縮退を持つ有機導体におけるベリー曲率
    2011年3月
  • 長谷川 浩也
    第一原理計算に基づく鉄砒素系超伝導体の3次元バンド構造の研究
    2011年3月