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強磁性超伝導体のNMR

石田憲二 氏
Kenji Ishita
京都大学 大学院理学研究科 物理学第一教室

2018年10月11日(木) 14時00分~16時00分 理学館506

 2000年に報告のあった強磁性体UGe2の圧力誘起超伝導の発見は超伝導研究者に驚きを与えた[1]。なぜなら、UGe2ではウラン(U)の5f電子が強磁性と超伝導の両方の起源になっており、それ以前は超伝導を示す遍歴強磁性体は存在しないと考えられていたからである。その後の精力的な研究により4つのU化合物が強磁性超伝導体として知られている。これら強磁性超伝導体に共通に見られる特異な物性として、超伝導上部臨界磁場Hc2の温度依存性や大きな異方性が挙げられる。強磁性超伝導体UCoGe (TSC ~ 0.7K) において、磁気モーメント方向 (c軸) に垂直に磁場を印加した場合μ0Hc2は20 Tを超えるほど大きいが、磁場をc軸方向に印加すると、μ0Hc2は高々1 T程度で抑制され、Hc2は非常に大きな異方性を示す[2]。また磁場をb軸に印加した場合、5 Tから12 Tの磁場領域では僅かではあるが超伝導転移温度に上昇が見られる。この傾向は強磁性超伝導体URhGe (TSC ~ 0.25 K) ではさらに顕著で、磁場によって壊された超伝導が、9 - 13.5 Tの磁場領域で再び現れ (リエントラント超伝導)[3]、興味深いことに、このリエントラント超伝導の方がゼロ磁場の超伝導より転移温度も高くマイスナー信号も大きく超伝導として強固であることが分かる。

 本講演ではUCoGeの特異なHc2の振舞いを理解するために行ったコバルト(59Co)核の核磁気共鳴(NMR)、核四重極共鳴(NQR)の実験を紹介する[4]。得られた実験結果と理論モデル計算の結果[5]、強磁性超伝導体では通常超伝導を抑制するはずの強磁性相互作用により、通常とは異なるスピン三重項超伝導が引き起こされていることが明らかとなった。

 尚、我々のUCoGeのNMR/NQRの実験は、名大佐藤教授のグループとの共同研究である。

[1] S. S. Saxena et al., Nature (London) 406, 587 (2000).
[2] D. Aoki et al., J. Phys. Soc. Jpn. 78, 113709 (2009).
[3] F. Levy et al., Science 309, 1343 (2005).
[4] T. Hattori et al., Phys. Rev. Lett. 108, 066403 (2012).
[5] Y. Tada, S. Takayoshi, and S. Fujimoto, Phys. Rev. B 93, 174512 (2016).