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ボルツマンマシンを用いた量子多体系のソルバーの開発

野村悠祐 氏
Yusuke Nomura
東京大学大学院 工学系研究科

2018年7月13日(金) 10時30分 理学館614

 機械学習の手法の一つである人工ニューラル・ネットワーク、中でもボルツマンマシンを利用した量子多体系のソルバーの開発について報告する。

 近年、制限ボルツマンマシン(RBM)が柔軟に関数形を近似できることに着目し、量子多体系の基底状態波動関数そのものをRBMを使って表すという試みがなされた[1]。この手法ではハミルトニアン内の物理自由度(可視層)に加えて、新たな自由度である不可視ユニットからなる隠れ層を一層導入し(制限付きボルツマンマシン(RBM))、物理自由度と隠れ自由度の間の相互作用を変分パラメータとして変分波動関数を構成する。このRBM試行波動関数は量子スピン系の基底状態を非常に良い精度で表せることが明らかになった[1]。

 本発表前半では、機械学習で用いられる柔軟で非経験的なRBM関数と、従来の波動関数法で用いられる実空間エンタングルメントを効率的に取り込めるペア積(PP)状態を組み合わせることによって(RBM+PP)、フェルミオン系、量子スピン系を問わず様々な格子ハミルトニアンに適用できる柔軟かつより精度の良いソルバーを構成したことを報告する[2]。

 後半では、 RBMの構造に加え、もう一層隠れ層を持つ深層ボルツマンマシン(DBM)を用いて厳密に基底状態を構築する方法を紹介する。DBMはRBMよりも関数の表現能力が向上することが知られている[3]。この性質を用いて、基底状態を表すDBMのパラメータの導出を解析的に行う[4]。充分長い虚時間発展の後、基底状態がDBM波動関数で書き下される。得られたDBMをもとに、見える層のスピンと隠れ層のスピンの配置をモンテカルロサンプリングすることによって物理量が測定できる。DBMは古典自由度で構成されており、この手法は新たな量子-古典マッピングのフレームワークを提供する(特別な場合経路積分と等価になる)。

 これらの成果は、Andrew S. Darmawan氏(東大)、山地 洋平氏(東大)、今田 正俊氏(東大)、Giuseppe Carleo氏(Flatiron Institute)との共同研究によるものである。

[1] G. Carleo and M. Troyer, Science 355, 602 (2017).
[2] Y. Nomura, A. S. Darmawan, Y. Yamaji, and M. Imada Phys. Rev. B 96, 205152 (2017).
[3] X. Gao and L.-M. Duan, Nature Communications 8, 662 (2017).
[4] G. Carleo, Y. Nomura, and M. Imada, arXiv:1802.09558.