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有機Dirac電子系のスピン感受率における電子間相互作用の効果

松野元樹 氏
Genki Matsuno
名古屋大学 理学研究科

2017年9月4日(月) 10時30分 理学館614

 分子性導体のα-(BEDT-TTF)2I3には、圧力下において質量ゼロのディラック電子系が見つかっている。ディラック電子相は電子間相互作用により秩序化した電荷秩序相に隣接しており、この系ではディラック電子相においても電子間相互作用の効果が重要であると期待される。

 実際の系ではNMR法におけるナイトシフトの測定により、相互作用のない模型では説明できないフェルミ速度異常とフェリ磁性揺らぎが見出されている。また、スピン緩和時間T1においては、加圧により温度Tに対するベキ指数が減少する振る舞いが観測されている。

 これまでの理論研究により、フェルミ速度異常はクーロン相互作用の長距離部分、フェリ磁性揺らぎは短距離部分の効果と考えられているが、なぜフェリ磁性揺らぎが発現するのかは解明されていなかった。また、T1のベキ指数が変化する原因も未解明であった。

  本研究では、α-(BEDT-TTF)2I3のディラック電子系を表す拡張ハバード模型に基づき、ナイトシフトとT1の特異な振る舞いのメカニズムを解明し統一的に理解することを目指す。第1に、フェリ磁性揺らぎは短距離クーロン相互作用が媒介するバンド間励起とディラック電子系特有の波動関数により発現することを示す。第2に、T1の温度依存性に対する長距離クーロン相互作用の自己エネルギー効果を示す。以上の結果により、α-(BEDT-TTF)2I3におけるナイトシフトとT1の特異な振る舞いは電子間相互作用の効果として統一的に説明できることがわかった。