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内部自由度を持った原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体

川口由紀氏
Yuki Kawaguchi
名古屋大学 工学研究科

2016年11月29日(火) 10時30分 理学館614

 スピン内部自由度を持った原子気体のボース・アインシュタイン凝縮体(スピノールBEC)では、系の自由度が高いために様々な対称性の破れ方が可能で、内部自由度に依存して多様な磁性相が出現する。各相のふるまいは対称性の破れ方によって決まり、スピンテクスチャの形成に伴って超流動カレントが生じたり、分数量子渦や非可換渦、スキルミオンといった複雑なトポロジカル励起が出現しうる、といった特徴がある[1]。

 本講演では、スピノールBECについての一般的な性質を紹介した後に、最近の研究である、スピンホール効果[2]について議論する。ここでの、スピンホール効果の起源は原子の磁気モーメント間に働く磁気的双極子相互作用である。強磁性BECにおける双極子相互作用は古典的な磁性体の場合と同様にスピン渦や磁区ドメインなどの磁化構造を引き起こすことが知られている。局所磁化を持たない反強磁性BECの場合は、双極子相互作用の効果は励起スペクトルに顕著に現れ、スピン流と質量流の間に非対角相関を作り出すことで、スピンホール効果を引き起こす。これは、双極子相互作用が一種のスピン軌道相互作用であることに由来する。

[1] Y. Kawaguchi and M. Ueda, Physics Reports 520, 253-381 (2012).

[2] T. Oshima and Y. Kawaguchi, Phys. Rev. A 93, 053605 (2016).