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動的平均場理論に反強磁性揺らぎを取り込む拡張理論と重い電子超伝導への応用

大槻純也 氏
Junya Otsuki
東北大学 理学研究科

2015年10月28日(水) 14時00分 理学館506

 遷移金属化合物や希土類化合物などの強相関電子系の理論研究においては、多体効果の扱いが重要なテーマである。動的平均場理論は強相関効果を取り込むことができる近似理論で、特にモット絶縁体や重い電子状態の記述において成功を収めており、最近ではエネルギーバンド計算にも応用されている。このように動的平均場理論は強相関系の理論研究において非常に有用な近似理論であるが、そのままでは量子臨界現象やその近傍で起こる超伝導が扱えないという制約がある。この問題を解消するための拡張理論が数多く提案されており、中でも近年特に急速な発展を見せているのが、反強磁性等の長距離揺らぎを取り込む拡張理論である。本講演ではデュアルフェルミオン法と呼ばれる、動的平均場理論を出発点とした摂動展開法[1,2]を紹介する。

 この理論が威力を発揮するのが重い電子系の超伝導である。重い電子超伝導を理論的に扱うためには、重い電子の形成に本質的なスピンの時間的な揺らぎ(近藤効果、局所相関)と超伝導を誘起するスピンの空間的な揺らぎ(長距離相関)の両者を取り入れる必要がある。上述の理論の発展により、それらの統一的な扱いが実現してきており、これにより本当の意味での重い電子超伝導の微視的な計算がようやく可能になってきたといえる。

 重い電子系の基本的模型である近藤格子模型に適用した数値計算の結果、反強磁性量子臨界点近傍において非自明なペア対称性を持つ超伝導が実現することが明らかになった[3]。この結果は、これまで超伝導との関連ではあまり議論されてこなかったf電子の遍歴・局在双対性が超伝導に重要な役割を果たしている例であり、重い電子系化合物の圧力誘起超伝導相において新奇なペア対称性が実現している可能性を示唆するものである。本講演ではこれらの結果を紹介し、さらに今後の展望についても述べたい。

[1] A. N. Rubtsov et al., Phys. Rev. B 79, 045133 (2009).

[2] J. Otsuki, H. Hafermann, A. I. Lichtenstein, Phys. Rev. B 90, 235132 (2014).

[3] J. Otsuki, Phys. Rev. Lett. 115, 036404 (2015).