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傾斜ディラックコーンをもった有機導体における動的誘電応答の理論

西根 達郎 氏
Tatsuro Nishine

2011年12月16日 13時00分 理学館614

凝縮系物理で現れるディラック電子系は, 通常の電子系にはない特異な性質をもつことから, グラフェンの発見以降活発に研究されている. その中で, 加圧下においてゼロギャップ状態を示すことが近年発見された擬2次元有機導体のα-(BEDT-TTF)2I3は, フェルミ面付近でディラックコーンが傾斜した形のバンド構造をもつことが強束縛近似による計算で示され, 第1原理計算でも確かめられている. これは等方的なディラックコーンをもつ物質であるグラフェンにはない特徴であり, 物理量に対してどのようにコーンの傾斜の効果が反映されるのかがわかれば, 実験からコーンの傾斜の大きさや方向を検証することができる.そこで本研究では光学実験で測られる物理量に対する傾斜の効果に着目して, 静的および動的な誘電応答の性質を明らかにすることを目的に, この系の分極関数の解析を行った.

主要な結果として, ゼロギャップ状態のα-(BEDT-TTF)2I3を記述する有効モデルである傾斜Weyl方程式に対する, 絶対零度での分極関数の解析的および半解析的な関数形を見出すことができた. これに基づいて電子-ホール励起スペクトル, プラズモン励起, 光学伝導度, そしてクーロン相互作用のスクリーニングに対するコーンの傾斜の効果を調べたところ, 等方的な場合には見られなかった構造をもつことがわかった. (電子間クーロン相互作用はRPAの範囲で考慮した. )中でも特徴的なのは分極関数の波数および振動数依存性に, コーンの傾斜に起因するカスプ構造と異方性が現れることである. これらは傾斜の大きさと方向によって変化するため, 電子-ホール励起スペクトルや光学伝導度の測定から, コーンの存在を裏付け, その傾斜の大きさと方向も決定できることになる. さらに傾斜ディラックコーンがペアで存在することをモデルに取り入れた場合, プラズモンの伝播方向に強い異方性が生じる「プラズモンのフィルタリング現象」を見出した.