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FeSe122系超伝導体におけるギャップ関数:スピン・軌道揺らぎ理論による解析

齋藤 哲郎 氏
Tetsuro Saito
名古屋大学 大学院理学研究科

2011年4月25日 13時30分 理学館614

2008年に発見された鉄系超伝導体の超伝導発現の起源として、スピン揺らぎによる符号反転のあるs波(s±波)超伝導[1]と、軌道ゆらぎによる符号反転のないs波(s++波)超伝導[2]の2つの理論が提唱されている。これらの理論においては点周りのホール面と、X/Y点周りの電子面間のネスティングを利用している。しかし最近発見されたFeSe122系超伝導体[3]においては、光電子分光[4]やバンド計算[5]によると点周りのホール面がないため、フェルミ面間のネスティングがない。それにもかかわらず、高い超伝導転移温度(Tc~30K)が観測されているため、ネスティングを前提とする理論を再考する必要が出てきている。ギャップ関数の性質はARPESや比熱測定などで調べられており、スピン揺らぎによる超伝導と軌道の揺らぎによる超伝導を見分ける重要な鍵となると考えられる。このため本コロキウムではFeSe122系においてそれぞれの理論に基づきギャップ関数の性質について詳細に議論を行う。この結果、スピン揺らぎの理論ではフェルミ面上にノードが入るd波ギャップが得られ、軌道揺らぎの理論を仮定すると等方的なs++波ギャップが得られることが分かった。このことからギャップの大きさの波数依存性を丁寧に調べることで、この2つの超伝導状態を見分けることができる。

[1]K. Kuroki, et al, Phys. Rev. Lett. 101, 087004 (2008).
[2]H. Kontani and S. Onari, Phys. Rev. Lett. 104, 157001 (2010).
[3]J. Guo, et al, Phys. Rev. B 82, 180520(R) (2010).
[4]Y. Zhang, et al, Nature Mater. 10, 273 (2011).
[5]I. A. Nekrasov, and M. V. Sadovskii, Pis’ma Zh. Eksp. Teor. Fiz. [JETP Lett.] 93, 182 (2011)