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レーザー光電子分光から見た鉄系超伝導体の電子状態

下志万貴博 氏
Takahiro Shimojima
東大物性研究所

2010年2月3日 13時00分

2008年2月に鉄系超伝導体が発見され[1]、銅酸化物系に次ぐ高い超伝導転移温度から注目を集めている。鉄系超伝導体の母物質は磁気・構造相転移を示し、低温において反強磁性金属である。超伝導機構との関連から、反強磁性金属相における電子状態についてこれまで盛んに調べられている。本物質系はキャリアドープ、圧力印加等によって超伝導を示す。その舞台として、Γ点近傍の筒状のホール面及びM点近傍の電子面が予想されている。これらの非連結フェルミ面間の反強磁性スピン揺らぎが電子対を媒介し、符号反転のあるs±波超伝導対称性を導く機構が提唱されている[2]。過去の角度分解光電子分光からは、ノードを示さない超伝導ギャップが観測され上記の理論と整合している。しかし超伝導ギャップサイズのフェルミ面依存性や面内異方性については、未だ一致した見解は得られておらず、超伝導機構について議論するためにはさらに詳細な測定が望まれる。 本講演では、エネルギー分解能及びバルク敏感性に優れたレーザー光電子分光装置を用いて観測した母物質の反強磁性電子状態を紹介し、磁気・構造相転移における軌道の重要性について議論する。また、鉄系超伝導体Ba0.6K0.4Fe2As2及びBaFe2(As0.65P0.35)2の詳細な超伝導ギャップの波数依存性について報告し、物質間の比較から超伝導機構に関して議論したい。

[1] Y. Kamihara et al., JACS 130, 3296.(2008)

[2] I.I.Mazin et al., PRL 101, 057003. (2008), K.Kuroki et al., PRL 101, 087004 (2008)