野村拓司 氏(2018/07/27)

共鳴非弾性X線散乱で観る強相関電子系の電子励起とその理論
野村 拓司
Takuji Nomura
量子科学技術研究開発機構 放射光科学研究センター(SPring-8)
2018年7月27日(金) 10時30分 理学館614

 近年、高輝度放射光X線を用いた強相関電子系の研究が盛んに行われている。中でもK殻1s電子やL殻2p電子を共鳴励起させることに伴うX線散乱(共鳴非弾性X線散乱:RIXS)が、その電子励起スペクトルを観測するために利用されている[1]。RIXSで観測にかかる電子励起は非常にバリエーションに富んでおり、電荷励起、スピン(マグノン)励起から軌道励起まで、そこには他の実験方法では観測不可能な励起まで含まれている。RIXSの著しい特徴は、従来の光学的測定と異なり、励起の波数依存性まで観測できることである。一方、その励起過程の複雑さから、多くの理論研究もなされてきた。

 本コロキウムでは、K-およびL-吸収端RIXSの基礎的解説から始めて、代表的な理論研究を紹介する。従来最も用いられてきた計算方法は少数サイトハバード模型での数値厳密対角化であったが、これは電子相関を近似なしに扱える反面、現実的で多軌道の複雑な電子構造に適用することができず、実験結果を精密に解析し波数依存性の詳細まで求めることが困難であった。これに対して講演者が寄与してきた部分として、Keldysh形式に基づく摂動論的定式化を解説する。RIXSスペクトルと通常の2体相関関数との関係に触れ、現実的な電子状態を有するハバード模型から出発して、平均場近似や乱雑位相近似といったオーソドックスな近似方法を用いた理論計算例をお話しする。具体的に、銅酸化物や鉄化合物を対象として、次の話題を取り扱う。:

(1)銅酸化物におけるK-吸収端RIXS:電荷移動励起および2マグノン励起。[2]

(2)銅酸化物と鉄ニクタイドのL-吸収端RIXS:マグノン励起および軌道励起。[3, 4]

また、今後の展開もお話しする予定である。


[1] L. J. P. Ament et al., Rev. Mod. Phys. 83, 705 (2011); K. Ishii et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82, 021015 (2013).
[2] T. Nomura, Phys. Rev. B 96, 165128 (2017).
[3] T. Nomura, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 094704 (2015).
[4] T. Nomura et al., Phys. Rev. B 94, 035134 (2016).