主要論文の紹介-強相関電子系
遷移金属におけるスピンホール効果・異常ホール効果
金属中では外部磁場による正常ホール効果に加え、様々なホール効果が発現する。例えば強磁性金属では磁化に比例した「異常ホール効果」が、また常磁性金属では電流を伴わないスピン流が発生する「スピンホール効果」が観測される。これらは輸送現象における原理的問題として、またはスピントロニクスにおけるデバイス開発の観点から、近年ますます盛んに研究されている。
最近のPtをはじめとする各種遷移金属における「巨大スピンホール効果」の発見は、この分野の研究をいっそう加速した。我々はまず、4d遷移金属化合物であるSr2RuO4がPt 並みに大きな「内因性スピンホール効果」を示すことを導いた[1]。(これは遷移金属におけるスピンホール効果の初めての理論研究である。)その起源は、伝導電子がd軌道の角運動量に由来するベリー位相―軌道Aharonov-Bohm(AB)位相-を獲得する結果、巨大な有効磁場を感じることにある。更に4d,5d遷移金属のスピンホール効果を網羅的に解析し、巨大な内因性ホール効果が普遍的に出現することを見出した[2,3]。
さらに、f原子不純物によるスキュー散乱を利用した「巨大スピンホール効果」の理論的提唱[4]、また超伝導体中における内因性ホール効果の研究[5]も行っている。
- H. Kontani, T. Tanaka, D.S. Hirashima, K. Yamada, and J. Inoue
"Giant Intrinsic Spin and Orbital Hall Effects in Sr2MO4 (M=Ru,Rh,Mo)"
Physical Review Letters 100, 096601 (2008) - T. Tanaka, H. Kontani, M. Naito, T. Naito, D. S. Hirashima, K. Yamada, and J. Inoue
"Intrinsic spin Hall effect and orbital Hall effect in 4d and 5d transition metals"
Physical Review B 77, 165117 (2008) [Editors suggestionに選定] - H. Kontani, T. Tanaka, D. S. Hirashima, K. Yamada, and J. Inoue
"Giant Orbital Hall Effect in Transition Metals: Origin of Large Spin and Anomalous Hall Effects"
Physical Review Letters 102, 016601 (2009) - T. Tanaka, and H. Kontani
"Giant Extrinsic Spin Hall Effect due to Rare-Earth Impurities"
New Journal of Physics 11 (2009) 013023 - H. Kontani, J. Goryo, and D. S. Hirashima
"Intrinsic Spin Hall Effect in the s-Wave Superconducting State: Analysis of the Rashba Model"
Physical Review Letters 102, 086602 (2009)
スピンの幾何学的構造がもたらす非従来型異常ホール効果

パイロクロア化合物Nd2Mo2O7に代表される、互いに傾いたスピン構造を示す金属では、巨視的磁化に比例する従来型の異常ホール効果から大きく逸脱し、「微視的スピン構造がもたらす非従来型ホール効果」として注目を集めてきた。その起源として、3スピンの非共面性(non-coplanar)に由来するスピンカイラリティー機構が提唱されたが、スピンの傾き角θの2乗に比例するため、θ≪1であるNd2Mo2O7では小さい。その説明として我々は軌道AB効果に基づく理論を提唱した[1]。非共線的(non-collinear)スピン構造が電子に与える軌道AB位相により、θに比例した巨大な「非従来型ホール効果」が出現することを示した。この機構はパイロクロアに限らず様々なフラストレート系において実現することが期待される。
- T. Tomizawa and H. Kontani
"Anomalous Hall effect in the t2g orbital kagome lattice due to noncollinearity: Significance of the orbital Aharonov-Bohm effect"
Physical Review B 80, 100401(R) (2009) [Editors' Suggestionに選定]
高温超伝導現象
1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体[Tc=160K]と、2008年に細野たちにより発見された鉄砒素系高温超伝導体[Tc=56K]の研究は、現在の凝縮系物理における中心課題である。両者とも層状の擬2次元物質であるという類似点があるが、後者には前者には存在しない「軌道自由度」が存在するなど、相違点も多い。また超伝導ギャップ関数については、前者はd波であることが確定しているが、後者についてはs波と考えられているものの、フェルミ面間の符号反転の有無(s±波もしくはs++波)について未確定である。
我々は鉄砒素系における超伝導発現機構および超伝導ギャップ関数の特定を目的とし、超伝導状態における不純物効果[1]や非弾性中性子散乱スペクトル[2]の理論解析を行った。特に最近、鉄砒素系の特徴である軌道自由度の揺らぎ(軌道揺らぎ)による新しい超伝導発現機構を、多軌道ハバード・ホルシュタイン模型に基づく研究を遂行し、提唱した[3]。
- S. Onari and H. Kontani
"Violation of Anderson’s Theorem for the Sign-Reversing s-Wave State of Iron-Pnictide Superconductors"
Physical Review Letters 103, 177001 (2009) - S. Onari, H. Kontani, and M. Sato
"Structure of neutron-scattering peaks in both s++ -wave and s± -wave states of an iron pnictide superconductor"
Physical Review B 81, 060504(R) (2010) - H. Kontani and S. Onari
"Orbital-Fluctuation-Mediated Superconductivity in Iron Pnictides: Analysis of the Five-Orbital Hubbard-Holstein Model"
Physical Review Letters 104, 157001 (2010)

